08/19
2013
“暗黙知”で選ばれる
世の中にはさまざまな飲食店がある。
しかし、そんな数多の店の中で
多くのお客さまに選ばれる店が存在する。
その鍵は、数値化できない心配り=“暗黙知”
にあるのではないだろうか。
私がよく利用させてもらっている
神楽坂の居酒屋・椿々(ちんちん)に、
食のコンサルタント・大久保一彦氏と訪れた。
椿々は約20店舗を展開するチェーン店の1つで、
手頃な値段でおいしい料理が楽しめることから、
店内はいつもお客さまでにぎわっている。
数々の居酒屋を見てきている大久保氏は、椿々を訪れて
「お客さまとの接触を大切にしているところ
(大久保氏流に言うと“接触デザイン”)がポイントですね」
と語った。
たとえば、お通しのサラダは3種類のドレッシングから選べるのだが、
その際のやりとりでお客さまとスタッフの
ちょっとした会話が生まれる。
さらに、その日おすすめのお刺身を教えてくれたり、
オリジナルの炙りしめ鯖にはわさびではなく
からしをつけて食べてくださいと言われたり…。
つまり、お客さまとスタッフが接触する場を、
意図的に多く持とうとしているのだ。
マニュアル頼りのチェーン店の場合、接触を極力少なくして
問題が起きないよう対応しようとする傾向にある。
大久保氏曰く、繁盛しない店は
お客さまとの接触を重要視せず、うまく流して終わろうとする。
この対応こそが、お客さまが次に選ばない理由になっているという。
大久保氏は、焼肉店の“キムチ”について声高に語る。
焼肉店でのお客さまとの最初の接点は
キムチを提供するシーンになることが多い。
お客さまとの関係づくりに配慮している店は、
立ち止まり方やキムチの置き方、表情、
やりとりの声のトーンにまで気を遣っているという。
さらに、家族やカップル、同性同士など客層が異なる場合は
その関係に合わせて臨機応変に対応するのだと。
どういう風に接すれば、お客さまが
気持ちよく時間を過ごせるかを先回りして考え、
お客さまの様子を見ながらコミュニケーションをとっていく。
この気配りの積み重ねこそが、繁盛店の秘訣。
すなわちマニュアルにできない“暗黙知”こそが決めてなのだ。
大久保氏は、繁盛する店はこの“暗黙知”を
スタッフに伝授するために台本をつくり、
ロールプレイングを何度も何度も繰り返すという。
特別な食材を使ったりしない限り、
チェーン店で出される料理の値段や質に大差はない。
競合が多い世界の中でお客さまに選ばれるためには、
数値や言葉だけでは説明できない“暗黙知”こそが違いの基となる。
これは飲食店に限らず、あらゆるビジネスでも同じことだろう!
このなかなか伝えにくい“暗黙知”こそが、
これからのビジネスのキモになってくる。