12/03
2012
生き方と職人の技
「私は今年で85歳になりますが、これまで民家は一軒も造りませんでした。
自分の家もよそさんに造ってもらいましたのや。
民家は造ると、どうしてもいくらで何日までに上げねばならないと考えますし、
儲けということを考えな、やっていけませんやろ。」
『木のいのち木のこころ』(西岡常一/小川三夫/塩野米松著)より
この本に描かれているのは、今は亡き「20世紀最後の宮大工」
棟梁 西岡常一氏(享年86歳)。
彼は1400年以上もの歴史を持つ、世界最古の木造建造物・法隆寺の
修繕作業を祖父の代から行っていた。
この本を読むと、日本が世界に誇るべき
「宮大工」の心構えと技にいつも感動してしまう…。
冒頭の引用にあるように、西岡氏は人生で一度も民家を造らなかった。
そのことは、師匠である祖父の代から厳しく言われていたそうだ。
多くの需要がある民家造りは、正直儲かるだろう。
それに比べると、お寺の修繕や改装は、しょっちゅうあるものではない。
(新築はもちろんだが…)
よく考えると、宮大工には継続的な仕事がないのだ。
「言葉が悪い言い方ですが、儲け仕事に走りましたら
心が汚れるというようなことでした。
そのために私らは田畑を持っておりました。」という。
儲けようという歪んだ価値観では、
本当に「良いもの」「良い仕事」ができなくなる。
仕事がなければ、依頼があるまで自分たちの田畑で食をつなげばいい。
目先のことに惑わされない、
まさに徹底した「職人」としての生き方である。
これは以前、ビジ達で紹介した「秋山木工」にも似ている。
入社してから4年間は丁稚として働き、
人(職人)としての価値観・ものの考え方を養う。
「人」をつくらずして、本当に良いものづくりはできないという考え方だ。
また、奇跡のりんごの木村秋則氏も、
まずは「根づくり」が重要だと語っている。
大切な今(根)を怠っては、本当に良い仕事(実)はできないのだ。
彼らに共通して言えることは、
目先の結果を優先するのではなく、
物事をロングレンジでとらえるということだろう。
5年、10年、ひょっとしたら100年先の社会、
また未来に生きる人のことを想えるからこそ、「今」を大切にできるのだ。
そして、その考え方は生きていくうえで、多くの相乗効果を生む。
今の時代、つい目先のことに惑わされて
しまう人が多い。
(私も時々そうなってしまうが…)
こんな時代だからこそ、未来を見据え、
目の前にある「今」をしっかり生きることが}
大切なのだ。
(だから、「できるけど、しない」!)